患者に不安を与える
ちょっと思うところあって、2年くらい前、有名な李 啓充さんの講演を聞いたときのメモから引用します。「患者に不安を与える」というのは注意すべきキーワードだと思います。
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wrong site surgery(部位取り違え手術)について事例の紹介。これを防ぐため米国では医師が術前訪問時に手術部位にサインせよという勧告が出された。しかし病院によっては「患者に不安を与える」として採用しなかったところもある。しかし、実施した病院では「むしろ患者は面白がっている。医師と患者のコミュニケーションにひと役買った」との評価がでている。
ここでためになる話。「患者に不安を与える」はよく聞かれる言葉だが、この言葉を使う人の行いは、ほぼ例外なく事故防止に逆行する結果をもたらしているので注意すること。ある病院で朝の与薬を忘れ、夕方に2回分渡したという看護婦がいた。その人に「患者に与薬票を渡しておけば、教えてくれただろうに。あなたを助けてくれただろうに」と言うと、帰ってきたのが「患者に不安を与える」なのだが、本当にそうだろうか。
もう一つ本講演のハイライト。先の米国の例でも逆の足に「ここは切らないで」と書いたユーモアのある患者がいた。患者が間違った場所を手術されたくない場合は、「ここは切らないで」と体中に書かねばならない。書き忘れるとそこを切られてしまう。この話は小泉八雲の「耳なし芳一」を思い出させるが、耳を切られた住職の言葉が、間違った場所を切った外科医の言葉と見事に符合するのだ。「ああ、なんということをしてしまったのだ。自分で確かめずに耳を小僧に任せたのがいけなかった。今となってはどうすることもできない。傷が治るようにできるだけのことをするしかない。」外科医は自分でインフォームドコンセントを確認せず、術前の消毒などの準備を別のスタッフに任せていたのだった。
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