国民医療費の節減には腎移植の推進を
図書館に行くと、ひとつだけ日本語の医学雑誌があります。「医療」という名前の国立病院系の学術雑誌です。なぜこの雑誌がニューヨークの図書館に送られてくるのは不明ですが、何百もの雑誌の中に漢字があると、やはり手に取らずにはおれません。
ここにある最新号、医療vol.57,no.11は透析医療の特集の前編でした。今までもどこかで聞いたことはありましたが、日本は透析大国なんだなぁということをこの特集を読んで改めて再認識しました。
日本の透析患者は2001年現在21万人いて、過去10年で倍増しています。100万人あたりでは世界一の数字です。いっぽう透析患者の死亡率は米国の半分近くで、日本の透析医療は米国に比べて優秀な成績であると言えるでしょう。
米国では国が透析の総医療費を据え置く政策をとったため、一回の透析時間の短縮、機材の再使用が問題となっているということで、高い死亡率もその影響であることは否定できないようです。日本でもこのまま透析医療費が伸び続けたのでは、同じ道をたどりかねないことが懸念されます。
一方の腎臓移植の年間件数は、日本746,米13372,仏1840となっており、英国は1487ですがこれは献腎のみの数字です。日本の腎移植のうち献腎によるものは1989年の261件をピークに減少傾向となり、最近は150から200以下となっています。特に近年は、臓器移植法の施行により心臓死での腎移植にも脳死臓器移植と同じ手続きが必要だと誤解されているためだと思われ、残念なことです。脳死による腎移植は年間16件程度で、この減少分を補うにも足りません。
今回の特集で特に興味深かったのは、医療費の計算です。費用の面から見ると、透析は一人年間500万円かかります。腎移植後は年間平均200万になります。腎移植後の患者は透析中の患者に比べて合併症による入院が少ないので、それ以上の医療費が節約できるとのことです。移植の半数は10年生着するという成績から計算すると、現状でも献腎による腎移植の効果によって年間数十億円の医療費削減になっているというのです。
乱暴なことは承知で、仮に人口比で英国並みの献腎腎移植件数、今の20倍になったと仮定してみましょう。千億円の医療費が節減できるのではないでしょうか。これはなにも国民に痛みを強いる改革ではありません。患者の生活の質を上げながら医療費が節減できるのです。
脳死や心臓死からの献腎腎移植を増やすことは、日本の国民医療費を減らすよい方法だと思います。
半落ち効果
本と映画がヒットした「半落ち」で骨髄バンクの登録が増えるという嬉しい事態が最近ありました。これが、私がまさに医療ジャーナリズムに期待する効果なのです。お上に期待できないなら、せめてこういったブームに乗じて献腎移植が増えることを願いたいと思います。SMAP草なぎさん主演の透析離脱ドラマ、作ってもらえませんか。
関連リンク
今回の特集の執筆者のお一人がおられる、国立佐倉病院臨床研究部のページ
なんと3月1日から国立千葉東病院(仮称、リンク切れ)への統合のため、
聖隷佐倉市民病院(仮称)に移譲され、
10日前に存在した上記はすでにリンク切れです。何考えてるんだか(怒)。
腎移植を学ぶ会
透析患者のための医学入門講座(3)「透析医療のこれから」
その他なんとなく見つけたもの
東京女子医大腎臓病総合医療センター
透析の説明と海外事情 「糖尿病診断室(過激発言御容赦)」
小児腎移植への挑戦 東邦大学
当初の計算が大嘘でしたので訂正しました。すみません。。。
Mar.9追記
国立佐倉病院のページ、腹を立ててもしようがないので、キャッシュから転載します。新病院で復活したら削除の予定。
免疫機構研究室 室長 坂本薫免疫機構研究室では、腎移植患者の慢性拒絶の病態解明と治療法の開発、増加する一途の糖尿病性腎不全に対する根治療法として期待される膵・膵島移植の2つをメインテーマとして研究を進めています。これらの研究の解説は次回以降に譲り、まずは腎移植一般の話と当院における活動内容を紹介いたします。
慢性腎不全の根治療法-腎移植-と国立佐倉病院
腎移植が成功すると、患者さんは透析を受けていた時とは比較にならないくらいの恩恵を授かります。日々の食事や水分摂取の厳しい制限から開放され、週2~3回数時間に及ぶ透析のための通院が不要となり自由に旅行や移動が可能になります。長年の透析治療でも防ぎきれない循環器、骨、内臓などの様々な合併症の進行も止まり時には改善し、女性にとっては妊娠出産の可能性が飛躍的に高まります。さらには医療費の点でも比較にならないくらい軽減されます。平均的な経過をたどっている腎移植患者さんでも一人当たり1千万円以上もの医療費が節減されています。腎移植は医療技術としても既に20年以上経っており、その成績は5年生着率が65.7%、生存率90.4%であり、10年生着率も41.2%(生存率80.3%)と安定しており、諸外国にもひけをとらない水準を維持しています(国立佐倉病院献腎移植症例)。
わが国の慢性透析患者数は、昨年12月で206,134人に達しさらに毎年3万人以上が新規に導入されています。これに対して、唯一の根治的治療法である腎移植数は年間わずか744件(2000年)にすぎません。しかもその多くが生体間の移植で(598件;80.4%)で、死後の提供による献腎移植は146件19.6%です。献腎移植を希望して日本臓器移植ネットワ-クに登録している待機患者数は13,230名に上っています(2000年12月)。
国立佐倉病院では、旧療養所時代の1974年(昭和49年)5月に国立病院・療養所における最初の腎移植を献腎、生体腎ともに実施して以来これまでに201例(献腎99例、生体腎102例)の腎移植を行ないました。特に献腎移殖は、当時ふた桁(10例以上)の移殖実績を持つのはわが国では佐倉病院・千葉大学第2外科グループのみという草創期であり、当院での移殖症例の積み重ねに伴なって地方腎移植センターの整備や死体腎移植オンラインシステムの運営などを担当し、全国の腎不全(移植)対策の中核施設となってきました。
平成7年の社団法人日本腎臓移植ネットワーク(現日本臓器移植ネットワーク)発足にともない当院の役割も変化してきましたが、臓器提供に関わる組織適合性検査の全国センターとしての役割を果たし、院内で腎移植を行うばかりでなく県下および近隣県の提供施設からの献腎摘出に協力しています。平成9年に臓器移植のための新しい法律である「臓器の移植に関する法律」が制定され、長く我が国では行われなかった脳死下での臓器提供が可能になりました。平成11年5月には国立佐倉病院でも第2例目の脳死下臓器提供をうけて腎移植を担当いたしました。手術後の経過も良好で提供者とご遺族の遺志を無事に生かし、また患者さんの長年の希望をかなえることが出来ました。脳死であれ心臓死であれ突然の死に際しての臓器提供というものが非常に大変なことなのだということを毎回痛切に感じさせられますが、これまでに合計16件の脳死下での提供があり、我が国での脳死下臓器移植も徐々に定着して行くように感じられます。脳死移植が実現した今日でも、我が国の移植医療に最も不足しているのは提供者数が少ないことと言えるでしょう。みなさんはドナーカード(臓器提供意思表示カード)はお持ちでしょうか。
新しい取り組みをご紹介します。成績が安定しているとは言ってもより良い成績を目指した研究と研鑚は怠ってはなりません。献腎移殖では、より正確で効率の良い組織適合性(HLA)検査や提供腎摘出技術の開発改良が必要であり、生体腎移植ではより負担のない手術方法の開発により提供者、受腎者ともに移殖が受けられる可能性の拡大に取り組むことが求められています。わたし達は新しいアプローチ(到達)法による後腹膜腔鏡視下ドナー腎摘術を開発し提供者の身体的精神的負担の少ない良好な結果を得ています。また診療各科との連携により腎提供者の適応拡大に努め、軽度の生活習慣病を有していたり比較的高齢の提供希望者からの生体腎提供も安全に行なえるようになりました。
移植患者のQOLも大切です。腎移植は移殖医だけで行える医療ではありません。移殖手術は治療の始まりにすぎず、移殖後の様々なケアがその後の成績と患者さんのQOLを大きく左右します。免疫抑制剤とその副作用、透析治療時代からの持ち越した疾患、新たに発生する合併症等に対しては内科医、透析医、整形外科医などの医師団と看護部、薬剤部、栄養管理室等の協力のもと多様で多角的な診療や生活指導が必要とされます。さらには提供者への精神的援助、医療費・障害者年金などの経済的問題に関しては事務系職員も重要な役割を担っています。当院は各科の垣根が低く、各部署との連携も円滑に行なわれております。また今年度から発足した政策医療腎疾患診療・臨床研究ネットワークシステム(通称「腎ネット」)により国立病院・療養所での腎移植全症例(381例)を集めたデータベースを構築し国立病院・療養所全体での共同の診療・研究体制を整備しつつあります。このような病院全体さらには国立病院・療養所全体としての一丸となった取り組みが今後ますます重要となると思われます。
当院は、千葉県西北部北総台地のほぼ中央である佐倉市にあり1874年(明治7年)創設され127年の歴史を有しています。国立病院療養所の再編成計画により、近い将来国立療養所千葉東病院(千葉市)との統合が決定されました。現在すでに研究部門(臨床研究部1部5室)を有し腎ネットを立ち上げ政策医療推進を担う研究を行っておりますが、統合後は国の政策医療ネットワ-クの中心となる高度専門医療施設(準ナショナルセンタ-)として発展することなります。ここに述べました歴史と実績を踏まえ、確かな地歩を固めて行きたいと意を新たにしております。
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コメント
はじめまして。
腎移植や肝移植についてブログをリサーチしていたところ、貴サイトへたどり着きました。
臓器移植に関して様々なブログを読み歩いて勉強をしています。
助かる命がそこにあるのなら、少しでもお役に立ちたいと日々考えています。
こちらのサイトにありました意見や情報は色々参考になりました。
ありがとうございました。
投稿: 腎移植について | 2011/02/09 13:47