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2004/03/16

「学生が電子カルテ閲覧」問題の深層

学生が電子カルテ閲覧 金沢医大、教員を処分」という報道がありました。このニュースには当サイトとしては触れないわけにはいかないなぁと思っていたところ、あるMLでさっそく質問がありました。以下はその二番煎じです。

 この報道、見出しを見ただけでは、医学部の学生に電子カルテを閲覧させたことが問題であるように受け取られやすいと思います。報道内容から読める範囲で事実関係を整理しますと、学生に電子カルテを閲覧させたことが問題ではなく、教員が学生に医師である自分のパスワードを教えたことが問題なのです。
 これはすなわち、学生がその医師としてカルテ記載や抗がん剤処方などの医療行為ができてしまうことを意味します。さらには学生がやったという証拠はどこにも残りません。

 この学生の利用という問題は大学病院での電子カルテの運用上問題になるポイントの一つです。解決策はいろいろありますが、代表的なものとしては、権限を制限した閲覧用の学生用IDを作るというのが一つ。他には医師が必ず同席して、自分の権限で開いたカルテ内容を見せるという方法があります。臨床実習が実技志向になっている現状では、学生に電子カルテやオーダリングシステムでの処方の実際を体験させる必要もあると考えれば、この方法を取りたくもなりますね。
 紙カルテでは、学生が勝手にカルテを見ることも可能な施設が多いと思いますが、電子カルテではセキュリティが高い分、学生の利用には不便もあるわけです。

 人手不足の日本の大学病院で、学生の電子カルテアクセス権を正しく管理していくのは並大抵のことではありません。医師のアクセス権でさえきちんと管理するのは容易ではないのです。「退職した医師が次の日からシステムを使えないようになっているか?」という問いに、胸を張ってイエスと答えられる病院がどのくらいあるでしょうか。私の米国の職場はきっちりとそれができているようです。私が米国に来たのは、このようなあたりまえのことにしっかりと対応する仕組みを学びにきたわけで。

 金沢医科大学の今回の処分は、このような基本原則をきちんと押さえた点で評価できると思います。メディアはそこまでわかっていなかったのかもしれませんが、報道してくれたことには感謝です。

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コメント

 アクセスコントロールがちゃんとできないのであれば、そもそもシステムを導入すべきではありません。「並大抵のことで無い」であってもそれは必要なコストです。

投稿: satoshis | 2004/03/17 11:55

コメントありがとうございました。私も同感です。

 日本の医療現場では「必要なこと」が実現できない、「必要なコスト」が出ないという事例がごろごろしています。32時間寝ないで連続勤務の旅客機のパイロットがいるでしょうか。でも病院の医師には時々います。当サイトではこのような現状を今後もご紹介していきたいと思います。

投稿: ynb | 2004/03/18 01:16

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