メディアは役所の露払いになっていないか?
最近ニュース解説サイトのようになってきましたが、この件も触れた方が良さそうです。
82病院が医療費増…抑制へ「定額払い」導入したのに(読売新聞)
定額払いは無駄な治療や投薬をなくし、医療費を引き下げることが期待されているが、これらの病院の収入面で見ると、逆に増える結果となった。医療費を減らすために導入した定額払い制度の結果、医療費が増えたというのがこの記事の要旨です。
この入院医療費の定額払い制度は平成15年度から全国の特定機能病院と東京女子医大病院(元特定機能病院)に導入された制度です。この制度は大変複雑でひとくちには説明できませんが、病気の種類によって入院医療費を決めてしまう制度です。従来の出来高払いと逆です。例えば脳梗塞で手術がなく、2~4週間の入院なら○○円とかいう感じです。
ただ、いきなり完全定額払いというのでは、病院ごとの事情の違いをカバーできません。たとえば都会の病院と田舎の病院に不公平になります。都心の患者が手術をするのなら、血液検査、CT検査などを通院ですませておいて、手術前日に入院できますが、船で3時間もかかる離島の患者は通院できないので最初から入院になります。当然後者の方が長い入院で病院の経費がかかります。そこで、調整係数というのが考え出されました。
以下は、第21回日本臨床検査医会振興会セミナーでの厚生労働省保険局医療課企画官 矢島鉄也さん(当時)の説明(PDF形式)の抜粋です。
医療機関別係数は機能評価係数と調整係数を足し合わせたものです.機能評価係数は医療機関の 機能を評価するための係数で,入院基本料等加算を係数化したものです.調整係数は医療機関の前年度実績を担保するための係数で,診断群分類による包括評価に係る医療費が平成 14 年 7 月~10 月の医療費の実績に等しくなるように各医療機関毎に設定したものです.ということで、計算どおりなら医療費は前年並みのはずです。今回医療費が増えた理由は記事中にもこう書いてあります。
診療の効率化で入院期間などが短縮されれば、それを生かせる大規模な病院などでは患者数が増えて収入増となり…しかし、見出しには、
抑制へ「定額払い」導入したのに本文にも、
厚労省は、定額払いの導入によって患者1人当たりの医療費が低下し、その結果、2001年度で年間31兆円に上る国民全体の医療費の抑制につながると見ている。とあり、いかにもこの制度で医療費が減らなければならないような論調です。元々医療費を減らさないために調整係数が設定されているわけですので、本来減るはずがないのです。前出の矢島企画官も、医療費を減らすためとは一言も触れておられません。
これは,特定機能病院の機能を適切に評価し,その機能にふさわしく良質で効率的な医療を提供するという観点から,「診断群分類」を活用した新しい包括払い制度を導入するものです.しかし、はからずもこの報道の裏に見えてくるのが厚生労働省の本音です。メディアは厚生労働省の本音を代弁させられているのではないでしょうか。本件を勉強不足と責めるのは可哀想な気もしますが、報道機関側も鵜呑みにされては困ります。
今回始まった制度は、この調整係数のさじ加減で病院の入院医療費を自在にコントロールできる可能性を秘めています。従来の例を見ても、メディアはこのような報道で世論形成に利用され、調整係数引き下げに向けた露払いの役割をさせられているのではないかと思えてきます。さて、どうなりますやら…。
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