医療情報学とは? またその英訳は?
今回はちょっと専門的?
「医療情報学は社会学である」(素人裸足さん)という評論を読んでから、いつかこの話題について書きたいなと思っていたのですが、ついにそのきっかけと出会いました。
医療情報技師というものを目指す人のための教科書の案内が届いたのですが、その写真を見ると、「医療情報」と書いた表紙の左横に、「Health Informatics」と書いてあります。しかしこの英語を直訳すると、「健康情報学」という感じで、医療情報の訳としてはどうかなという気がしました。医療情報の直訳はやっぱりMedical Information? この本のタイトルとしては「Healthcare Informatics」の方が良いのでは?
日本の医療情報学会の英名などを見ると、「医療情報学」は「Medical Informatics」と訳されてます。私の名刺にもそう書いていました。しかし、3月まで私がいた米国にある大学病院の部署名は、「Clinical Informatics」。直訳では臨床情報学でしょうか。私は割にこの名付けが好きです。
最近はBioinformaticsなんという言葉がはやってきています。バイオインフォマティクスの日本語訳もはっきりしないようですが(笑)、バイオインフォマティクスというのは、乱暴に言えばDNAや遺伝子やタンパク質とスーパーコンピューターの世界です。
いっぽう社会学たる医療情報学としては、より人間くさい英語表記を採った方が良いような気がしています。Medicalか、Clinicalか、Healthcareか。でもHealthというのはどうかなぁ……。
医療情報学とは
さて、標題とは逆になりましたが、ここで「医療情報学とは」について考察してみましょう。Web検索でまず当たるのはやはり愛媛大学病院 医療情報部。初めて聞いたときにはロジスティクスという表現にしびれました。医療情報学とは、患者さんを中心に考え、看護婦・医師・コメディカルスタッフなどの人的資源、病床・医療機器・薬剤などの物的資源、そして患者情報などの医療に関するあらゆる要素を、必要なところへ必要なときに最善の状態で提供するための「リアルタイムロジスティクス」を実現するための学問です。次はこちら。これが最もよく引用される定義のようです。
診断と治療 ・ 医学研究 ・ 医学教育 ・ 医療行政等、医学のすべての分野で扱われるデータ ・ 情報 ・ 知識をその医学領域の目的に最も効果的に利用する方法に関する科学このように、世間的には医療情報学には社会学という香りはほとんどありません。
もう少し人間くさい医療情報学とは
さて毎度のことですが、ここからは一般的な解釈とはかけ離れた話になりますのでご注意下さい。私が大学を出る頃勝手に考えていた「医療情報学」というのは、「医療にまつわる情報全体を扱う学問」という感じでした。上記の一般的な定義に加えて、「医療にまつわる情報を一般の人に正しく伝えるには」というテーマも気になっていました。これがNIFTYの電子会議室「医学ジャーナリズムを考える」にもつながっていたわけです。
とはいえ、こんな解釈は世間的には通用しないので、私も一般的な解釈に合わせておりました。しかし、最近よく聞くのが「医療情報の非対称性」という言葉です。医療情報の非対称性とは、医療者と患者の持つ医療にまつわる情報の量と質が違いすぎるということです。
この問題は、まさに私の守備範囲のうちです。しかし従来の一般的な医療情報学の守備範囲とは言えないと思います。医療情報の非対称性を研究する学問とは何と言えばよいのでしょうか。やっぱり医療社会学?
良い言葉が見つからないまま、今日も夜が更けてゆきます。
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コメント
突然失礼いたします。私自身も大学院生活において「医療情報学」とは何か。このテーマには本当に悩まされ続けました。おかげさまで学位論文を完成できましたが,医療情報学とは何ですか,貴方の研究が医療情報学研究と言える根拠はありますか,と問われれば,曲りなりの回答はできても,ソフィスティケイトされた誰もを説得できる回答は私自身にはできません。以下は私個人の考えや体験を含んだ内容になります。Medical Informaticsですが,これは「医療情報学」ではなく「医学情報学」と訳されることもあります。言葉の概念はいろいろな意見があるでしょうが,医療と言うと病院を中心に行われる社会活動全般という考え方ができるため,私自身敢えて「医療社会学」と呼ぶ必要もないと思います。医療情報学の中のサブ領域としての「医療社会学領域」でいいと思います。またHealth ですが「健康」と直訳して概念づけをしたがるのは,もしかしたら日本人くらいなのかもしれません。地域医療云々と言われるように「保健,医療,福祉」これらの連携が今後の課題でもあり,本来この学問領域は「医療情報学」ではなく「保健医療福祉情報科学」というべきかもしれません。しかし,これでは長すぎる。つまり社会学的な側面やそういうアプローチが可能なことも含めて,それをHealth という一言で統括して言い表していると私自身は考えています。現在はそれほど違和感はありません。カナダではビクトリア大学1校のみにこの学問領域を専攻できる学科(学部?)があり,そこでは"Health Information Science Department"という表現が用いられていました(そちらの先生と僕は英語で話をしたことがあります)。私は医療情報学会に学会用抄録(春季学会)を投稿したことがありました。1人のレフェリーから「貴方の研究は臨床工学で扱われる研究で,医療情報学会で発表するにはふさわしくない」という査読結果が返ってきました。うまくスルーして,結局はその投稿は採択されて無事に学会発表に至りました。新しいことをしようとすれば必ず反対する人が出てくる,大学院の研究生活ではそれの連続でした。もちろん医療は医学がベースなわけだし,お医者さんにリーダーシップを取ってもらう意味でも,そういう部分は大切にされなければならないと思います。文系と理系の融合(こういう区分けも日本だけかもしれない)というか,社会学的なところからもアプローチが可能で,社会学的なところを少し匂わせているところが,医学情報学だけでは終わらない医療情報学,Health Informaticsという分野の面白さに他ならないと私自身思っています。さらには「情報学」という分野も文理融合というか,そういう側面が強いみたいですね。全く解答にはなっていないかもしれませんし,充分お分かりのことの繰り返しが多いかもしれませんが,医療情報学の新しい分野を開拓に向けて是非頑張ってください(かなり当該分野の研究で有名なご年配の方であればコメント失礼いたします)。おそらくそういうことを深く考えられている時点で,医療情報学,医療情報学的アプローチからはそれほどかけ離れていないような気がします。陰ながら応援しております。 衣川 龍(Kinugawa Ryu)
投稿: 衣川龍 | 2014/07/07 15:10
以前いただいたこのコメントにお礼を書いていませんでした。
今日、「中規模病院におけるデジタル・トランスフォーメーション」という講演を聴き、「DXとは文化の更新である」という名言に出会ったので、久しぶりにこの記事を思い出していました。
コメントいただいたのが書いてから10年後、今日はその後6年あまり経っていますが、応援いただきありがとうございました。
投稿: ynb | 2020/11/21 00:23
本日(2021年3月27日)に自宅まで郵送されてきました、日本医療情報学会の学会誌、医療情報学、40(6)、2020年において、「医療情報学の先駆者の方が、かなり早い時期に、医療情報学の社会学的側面を受容したうえで新しい科学として発展していくことを望んでいた」という趣旨の内容が記されていました。著作権の関係から、少し言葉を変えています。一身上のことがあり、私自身、2014年の学位取得後は、医療情報学の分野に何らかの形で精力的に関わってきた身では決してありませんが、医療情報学という、いわゆる、学際的領域としての実践科学の近年の目ざましい発展自体も、DXではないですが、既存の実践科学や実学志向に対する文化的価値観の更新に大きく寄与してきたようにも思えてなりません。ただ、やはり、この潮流によって、数学や理論物理学などの純粋自然科学の意義、価値、社会的役割も、決して見失われるべきではないとも思います。現在のコロナウィルス感染症の問題、さらには、国内で症例数が少ない難病の治療法の研究の進展や研究費助成の問題を解決の方向へと後押ししてくれる可能性に期待を持てるのが、境界領域など扱う分野が幅広く、データ解析などの科学的方法論においても自由度が高く、社会学的側面も貴重としている、医療情報学であり、医療情報学的アプローチなのかもしれません。
投稿: 衣川龍 | 2021/03/27 18:16
すみません、このコメントも2ヵ月ほど見落としていまして、本日公開させていただきました。
投稿: ynb | 2021/05/30 13:27