実験だけで終わる遠隔医療は補助金の墓場になっていないか
ある「国内初」の遠隔医療に関する記者発表のお知らせが届きました。
国内で初めて、商用回線を利用して遠隔地から内視鏡外科手術用カメラの視野を制御した「遠隔共同手術」とのことです。
私も実際に役に立っている遠隔医療の実務をやっていますので、遠隔医療が現実に利用されるための条件は理解しているつもりです。私見では、コストに見合う効果、人のつながりの存在、救命への貢献です。
今後、医療界において広く利用される見込みがあり、医療の質と安全性の向上、国民医療への向上に大きく寄与できると考えております。私は「○○初の遠隔医療」と聞くとまず疑ってかかることにしています。今回も私には広く利用されるとは信じられません。
商用回線を利用した遠隔医療自体は新しいものではなく、長崎の離島では1991年からCT画像の伝送を行っており、福岡の病院と長崎県対馬の病院の間では、商用回線を利用して離島の病院の心臓カテーテル手技の支援を97年頃から行い、多くの患者さんが救われています。これはあくまで見ながらアドバイスする「支援」であって「遠隔操作」ではありません。
一方手術の遠隔操作も2001年頃から実験されているはずですが、専用の光ファイバーなどでの遠隔手術さえ普及していません。一言で言えばリスクに見合う需要がないからです。商用回線にすれば普及するとは思えません。
遠隔医療の歴史は、「実験のための実験」の歴史だと思います。「補助金の墓場」と言っても良いかもしれません。従来華々しく報道された遠隔医療の実験が実用化された例をいくつ挙げることができるでしょうか。
くだらない数字ですが、Googleで「遠隔医療」を検索すると18500件、「遠隔医療」「実験」は5580件、「遠隔医療」「実用」は773件しかありません。ドクターヘリ、ES細胞、肝移植など他の言葉と比べてみると興味深いです。
我が国の遠隔医療は内視鏡手術より20年も歴史が古い1971年に始まったのですが、いつまでたっても実験ばかりやっているような気がします。
参考
遠隔医療システム研究会
日本における遠隔医療(1998) 現在最新調査が進行中
ニューヨークとストラスブールで遠隔手術(2001)
大西洋越し遠隔手術
太平洋をまたぐ手術を企画(2001)
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コメント
手術などのInterventionは、さすがにまだ無理ですが
既にTeleradiologyは実用の時代です。
保険点数すら付いています。
投稿: ししど | 2004/05/09 05:36
コメントありがとうございました。Teleradiologyはビジネスにもなっていますね。日本の医療機関の過剰設備が背景にあるのかもしれませんが。
Telepathologyも良い仕組みで実用可能と思ったのですが、支援する側の人手不足で普及しないとは皮肉なものです。
それでもInterventional TeleradiologyとかTelesurgeryは教育や支援には使えると思いますが、操作は実験のみに終わると思っています。
投稿: ynb | 2004/05/09 10:58
CT/MRIの無秩序な設備配置もさることながら、最近では
マルメが皮肉にもアウトソーシングの原動力になっていたりします。
まあ、田舎に行きたがらない放射線科医もよくないのでしょうが。
投稿: ししど | 2004/05/09 16:28