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2004/06/15

「手術は成功でしたか?」とはもう聞かないでください

スポーツニュースで「エキスポズ大家投手、右手骨折」(正しくは右手首ですが)というのを見ました。上り調子だったので残念です。気長に復帰を待ちたいと思います。

 このニュースで気になったのが、「大家投手の手術が成功」という見出しです。30年前ならいざ知らず、いまどき手術をして「成功」か「失敗」という時代ではないでしょう。マスコミには「成功」という表現を使うのをやめてほしいものです。
 マスコミ関係でなくても、「手術は成功でしたか?」と医師に聞いて困ったような顔をされた経験をお持ちの方も多いと思います。



現代の医学は進歩している

 現代の医療で、成功か失敗かやってみなければわからないような手術がどのくらいあるでしょうか。たとえば腹部大動脈瘤破裂とか、緊急帝王切開など、1分を争う緊急手術くらいのものだと思います。現代のほとんどの手術は「成功」するまで終わらないのです。
 手術に成功、失敗という言い方が可能だったのは、3,40年以上昔、手術がそれこそ命がけの賭けだった時代のことだと思います。当時は手術の失敗の多くは死を意味していたでしょうし、手術が失敗でも、そのことで医療者を責める人もいなかったでしょう。

今どき「失敗」と言えば「医療ミス」扱いでは?

 それでは、今のご時世、報道記者に対して「手術は失敗でした」などと言おうものならどうなるでしょう。かなりの率の記者が見出しに「○○病院で医療ミスか、手術に失敗」とつけるのではないでしょうか。このような状況ですので、医療者にしてみれば、100の目標に対して80しか達成できずたとえ心の中では失敗だと思っていても、絶対に「失敗」と言えるわけがありません。

手術の成功は直後には判断できない

 例えば、ガンの手術を考えてみましょう。手術の成功が「ガンが治った」ことを意味するのだとすれば、ほんとうにガンが再発せず、成功だったとわかるには5年かかることになります。手術の直後に「成功ですか」と聞いても意味はないのです。

手術に「完全」はない

 私なら、たとえ心の中で「きょうの手術は満点のできだった」と思っていても、「成功しましたか」と聞かれて「ハイッ」と即答はできません。医療に絶対はないと思うからです。ほとんどすべての手術の結果は、成功と失敗の両極端の中間に位置しているのです。
 まあ世の中には胸を張って「もちろん成功ですよ」と即座に言える医師もいるとは思いますが。

結論

 ですから、「手術は成功しましたか」とは聞かないで下さい。「手術はどうでしたか」とか「手術はうまくいきましたか」と聞いてもらえれば、医師が答えに詰まることはないでしょう。

04/06/23追加
 イラクの少年、モハマド君の左眼の手術も「成功」だったようです。失敗するような手術ではなかったとおもいますが、世間の関心が高いだけに、執刀医の先生もちょっと緊張したかも。

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コメント

お久しぶりです。Kozuです。
成功と言う言葉がないこと、確かにおっしゃるとおりだと思います。失敗がゆるされないところでは(それは、医療業界にとどまらないと思う。)成功なんてことはないでしょうね。
あえて言えばやはりおっしゃっているとおり、成功という回答しかいいようがないんだと思います。失敗したと言うならば、手術は終えられない、仕事が終わったと言って帰れない・・・・おっしゃってる通りです。私は医療業界にいませんが、通じるところはあるなあと思った次第です。

投稿: Kozu | 2004/06/15 23:26

コメントありがとうございます。先日も院内の医療事故防止研修会で、手術で異物が体内に残る事例について勉強しました。ガーゼを残すような明らかなミスはともかく、糸の切れ端やシリコンの細片など、突き詰めればきりがないものです。クルマの排気ガス対策のようなものかも。

投稿: ynb | 2004/06/23 10:56

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