自助努力では病院マネジメントの改善は困難
東京にきて2週間、初めて東京新聞を読んだら、佐々木かをりさんのコラムが目にとまりました。
「病院マネジメント」という題で、定期健診で長時間待たされたこと、それに電子カルテが関係していたことに疑問を呈されていました。
残念ながら、今の仕組みのままで病院マネジメントの改善は困難だと思います。電子カルテのために医療現場が混乱するのも同根の症状です。
一般の常識からすると、日本の電子カルテをはじめとした大病院向け医療情報システムの品質はかなり劣ります。
たとえば、ユニクロで売っているシャツのボタン穴が、一番目は横、二番目は斜め、三番目は縦になっていて、ボタンの色も白、透明、黄色となっていたら、誰がそんなもの買うでしょうか。
「使いにくくても、見た目は悪くても、着られればいいじゃないか」
などとは、お店の人は言いません。
いまどき、車のホイールのデザインが4輪バラバラだったら、いくら「性能には問題ありませんよ」と言われても買う人はいないでしょう。日本で一番安いクルマだって、このようなことはないはず。
複数の企業の製品を見てきましたが、日本の医療情報システムのユーザビリティはこの状況に似ています。クルマで言えばレクサスのブランドで売っているような製品でも。
確かに一応動くし、仕事ができないことはないのですが、残念ながら、工業製品と呼べる品質ではありません。ユーザビリティに表れる品質は、やはりそのシステム全体の品質の鏡です。そして、そのようなものが国民の命に関わる現場では使われているわけです。
言い古されたことかもしれませんが、根源は日本の低医療費にあると考えています。医療費が安いため、医療機関は十分な医療を行うために必要な人員を雇えません。米国の病院の職員数は日本の3、4倍です。しかたなく医療機関はIT化に走るわけですが、それにも十分なお金を払えないので、メーカーもまともな品質の電子カルテを作れません。
日本の医療は公定価格なので、自由競争ができません。かといって一部の人々が言うように自由価格を認めてしまうと、お金がない人は最高の医療を受けられなくなってしまいます。日本は先進国の中で、コストの割に最高の医療を受けられる国ですが、そのしわ寄せが医療者の過重労働や佐々木さんが出会ったような不便になって表れています。
思い切って医療費を増やせば、医療機関で働く人の雇用が創出できるし、関連企業(電子カルテベンダー等)も潤って、景気にも好影響があると思うのですが。佐々木さんには厚生労働省の委員にも入っていただいて、お知恵を出していただけるといいな……なんて勝手に思っています。
私の新しい職場、そんな電子カルテで医療をやっているわけですから、大したものです。私もその裏にある現場の苦労を、早く少しでも軽くできればと思っています。
Jun. 27 2005 少し追記しました。
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コメント
十分なIT化の予算もない、情報システムの知識のある人材も病院内にいない、せっかくデータベースがあっても、なにも引き出せない。
わたしのいる病院も、現状はそんな状態です。
自治体病院には、本当に病院の業務をマネージする職種がいません。
つくづくそう感じます。
県や市から派遣される職員さんは、優秀な行政職ですが、病院の業務は経験が無く、慣れた頃には転勤させられます。
病院長先生も、自治体病院では人事権も、予算作成権もない。
そんな背景をもちながら、電子カルテ導入を図ってきました。
ようやく情報システムコンサルをいれて、業務の現状調査をはじめました。
わかってはいたけれど、看護師長が物流の管理までさせられて、非効率この上ないことがはっきりしました。 診療材料の在庫が別の県立病院も2倍もあった。
先生の新勤務地の電子カルテも、端末のパワー不足もあって、ゆーっくり動いてますよね。手術室では一台の端末でしか画像も見えないし、外科系の医師はかなり、我慢させられているようです。
よい解決策を、お願いします。
投稿: Drすずき | 2005/06/19 12:29
そろそろ巷に出るであろう「ご近所の愛」7月号では、ちょうどコンピュータの処理能力の話を書いてました。コンピュータの性能は3年で4倍になる計算ですので、一つのシステムを5年も6年も使い続けるのでなく、順次更新したほうが合理的なんでしょうけど。納得してもらえる説得資料を書く必要がありそうです。
投稿: ynb | 2005/06/22 21:00
日本の医療費は決して低くありません。
医療費が低いのではなく、医師の人件費が高すぎるということです。
今までに医師会が作り上げてきたシステムは、「医療」という社会の中では、医師がいなければ何もできないというものです。
コメディカルのすべての活動には、医師の指示が必要です。
各スタッフが、自らの意思で責任ある医療行為ができれば、何も医師に頼ることはなく、そうなれば、医師の人件費も下がるはずなのです。
医師に対する無駄な人件費が削減できれば、その分、設備やシステムに予算が回せます。
医療は非営利である!って立派な家に住んで、立派な車に乗っている医師が何人いることか!
医療は公務であると思います。
医師の年収上限1,000万円。
コメディカルの年収上限600万円。
これで、患者サービスは数段上がるはずです。
投稿: おず | 2005/07/01 18:44
コメントありがとうございました。私はそうは思いません。法律を引くまでもなく、医師なしでは医療とは言えないです。贅沢できる医師もいますが、問題は過酷な労働に見合う収入を得ていない医師たちの方です。それが一生続くとすれば、医師をやめる人が増えると思います。
投稿: ynb | 2005/07/01 23:01