揺らぐ電子カルテ三原則
メーリングリストで、こんな記事を教えていただきました。登録制なので、見えない人のために後に概要を書きます。
リンク: 電子カルテは裁判の証拠になり得るか:日経メディカル オンライン.
・裁判では、紙媒体に記録されたカルテは、コピーを証拠として提出するのが一般的で、電子カルテについても、デジタルデータをいったん紙媒体に印刷したものを提出することになる。しかし診療の過程での画面表示を忠実に再現して印刷するという機能が必要。
・紙印刷でなく原本のデジタルデータを裁判所に提出しても、裁判所のコンピューターでは見られない。
・相手側が電子カルテの改竄を疑っている場合、それが無いことを証明するのが困難。
いま私の職場も電子カルテシステムの更新に直面していますが、電子カルテのいわゆる3原則(真正性・見読性・保存性)のうち、見読性はともかく、真正性、保存性の確保は正直言って難しいように思います。裁判所で相手を納得させるのはさらに困難な気がします。
文字セット問題
真正性とは、書き換えや消去などを防止することです。巷で話題になっているとおり、Windows Vistaでは一部漢字の表示が変更されました。昔のデータを最新のパソコンで表示すると、真正性が失われる可能性があるとも言えるでしょう。
病名マスタ問題
5年前の病名マスタには、「精神分裂病」はあっても「統合失調症」という語はまだ存在しませんでした。現在は「統合失調症」だけを利用するようにすべきでしょう。システムを注意して設計、更新しないと、「統合失調症」のなかった時代のカルテの病名欄に「統合失調症」を表示してしまったり、「統合失調症」で検索しても「精神分裂病」は抽出できないといった事態を招いてしまいます。残念ながら現在の電子カルテシステムではこのような問題への厳密な対応はできていません。
原本の保存ができるか
保存性とは、「復元可能な状態で保存すること」です。電子カルテは実体がなく、紙に打ち出したものが原本とは言えません。稼働中のシステムで表示されるものが最も正しいといえるでしょう。しかし、ひとたびシステムの更新が行われれば、旧システムでの表示は再現できないのが普通です。たとえデータが保存されていても、もはや旧システムの稼働当時と同じ表示をすることはできないのです。真に保存性を担保しようとするなら、システムの更新は不可能になってしまうでしょう。それも非現実的な話です。
結局は、出しているものを信頼してもらうしかないのですが、日常はともかく、裁判ではこれがもっとも難しいことのようにも思えます。裁判に呼ばれないよう祈るのみです。
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コメント
はじめまして。裁判所の認識としては「カルテ自体は公開を予定していないメモのような性質のものである(http://www.courts.go.jp/saikosai/about/iinkai/asu_kondan/asu_kyogi13.html)」と言う話ですので、厳密な真正性が要求されているわけではないのかなとも思います。
また、裁判官のカルテに対する認識は「診療録上の記載は医療従事者が職務上行
うものであって、医療従事者が実際に行い、又は見分した内容をそのまま記
載するのが通常であることに照らせば、特段の事情がない限り、診療録上の
記載どおりの事実があったと認めるべきである(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070320115546.pdf)」と判決文には記載されていますね。
投稿: かまど | 2007/03/28 23:18
ご紹介ありがとうございました。
ひとつめの「明日の裁判所を考える懇談会(第13回)」で皆様が話されている内容は、私たちが直面している日常の印象からすると、ちょっと時代遅れの感があります。裁判所の認識も時代や個人によって大きな隔たりがあるのでしょうか。。。
私は「診療録は医師法で記載が義務づけられた文書であり、個人情報保護法の施行によって開示が原則となった」と思っています。
ふたつめにご紹介いただいた資料は、その次段が目をひきました。
「そして、入院診療録の体裁をみても、医師の記載部分は、日付、診療内容等の記載、署名の順で記載されており、同じ日の記載が頁をまたぐ際にはその旨の記載もされているものであるところ、平成○年○月○日の記載がこのような記載様式に反するとは認め難く、その他に様式や記載内容において不自然な点は見当たらない。」
すばらしいです。この施設ほど見事な診療録記載を行っている施設は滅多にないのではと思います。私は経験ありません。だから信じてくれるのだと思います。他の多くの施設は、裁判所を信用させられるだけの診療録を持っているかどうか。
投稿: ynb | 2007/04/01 08:03