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2007/07/11

ひと呼んでミスリード

 日本医学ジャーナリスト協会の正会員でもある私は、今日の夕方、有名な李啓充さんの講演をお聞きするために日本記者クラブに初めて行きました。

 でもその前に、朝から有明に行ってきました。マ社から記者発表に同席してほしいという依頼を受けていたためです。遅刻気味だったので、りんかい線の駅から息せき切ってビッグサイトに着いてみると、なぜかマ社の皆さんは手に手に日本経済新聞を持っているのです。一面にこんな記事。

リンク: マイクロソフト、医療情報システムの標準化呼び掛け.

マイクロソフトは日本国内の医療機関向け情報システムの標準化に乗り出した。(中略)割高だった医療情報システムの導入費用を最大5割引き下げられる。

 「をいをい、乗り出すとか呼びかけとか、5割下げとか、そんなことあるとも思えない。ウソでしょう。」と思わず苦笑してしまったのですが、どうやら先週あたりにマ社が受けた取材が記事になったもののようです。
 私は個人的にはつぎのような印象を持っています。

× マイクロソフトは日本国内の医療機関向け情報システムの標準化に乗り出した。
○ マイクロソフトは日本国内の医療機関向け情報システムに自社製品の利用を促進する活動に乗り出した。

× 割高だった医療情報システムの導入費用を最大5割引き下げられる。
○ 他の産業分野みたいに専用ソフトの汎用化がうまくいけば、5年先くらいには割高だった医療情報システムの導入費用を最大5割引き下げられるかもしれない。

 マスコミから取材を受けた医療関係者がメーリングリスト等でよくこんなことを書いておられます。

記者の中には、自分であらかじめ決めたストーリーがあり、どんな話でもその枠に無理矢理はめ込んで記事を書く人がいる。例えば30分取材する中で、取材相手がおおむね自分と反対の意見を述べていても、なんとか自身のストーリーに合うように水を向け、相手が少しでもそれに同調しようものなら、そこだけを切り出して自分に都合の良い記事にしたり、見出しにしたりする。だから、取材を受けたときは最終版がどうなっているかを確認させてもらい、同意したときのみ掲載するよう約束させること。
 今回もこのような経緯で書かれた記事だったのかもしれませんね。

 はた迷惑なのは、私もこの見出しに同調しているような誤解を受けそうなことです。私もいろんなところでいろんな方が努力されている標準化への取り組みをささやかながら応援しております。システムの調達仕様書には「標準的電子紹介状の仕組み(SS-MIX)やHL7やIHEを取り入れるように」とか、「次々期システムには標準的形式でデータ移行すること」とも書いてきました。
 また、昨年の日本病院学会シンポジウム「電子カルテの課題」では「日本の病院の電子カルテの費用は、世間のシステムと比較して安すぎる」なんて、見出しと逆の趣旨の発言をしているくらいですので。

 世の中にはスタンダードとデファクトスタンダードがあります。前者はISOやCENなどの国際的標準があり、後者の代表がマイクロソフトなわけです。国家や大企業レベルでは国際的標準の持つ意味が大きいですが、病院のような草の根の利用者の立場からすると、デファクトスタンダードの方が使い易かったりします。両者を混同してはいけません。

 まぁ記事の内容自体はあながち嘘というわけではないので、「誤報」とまでは行かないと思いますが、ある人によると「ミスリード」というらしいですネ。しかし、この記事のインパクトは業界では思いの外大きかったみたいです。私はユーモアを込めて「暗黒星団帝国」なんて使っていますが、本気でそれに近い印象をお持ちの方もいらっしゃるみたい。
 取材や記者発表などというものは、いろんな人がそれぞれの思惑で話し、聞き、書くわけですから、程度の差はあれ同床異夢になりやすいものです。しなやかに読み取っていただければと思います。



 前述の記者発表ですが、ビッグサイトに着いて、控え室で記者発表資料を見せてもらうと、なんと私も5分くらいお話することになっていました。たまたまパソコンを持っていたので、CHARTのプレゼンをゴミ箱から復活させてお渡しし、しどろもどろになりながらお話しました。
 ただここでちょっと問題がありました。実はCHARTには日本語名がないのです。便宜上、私は以前マ社からいただいた「医療IT普及促進コンソーシアム」を使っていたのですが、プレス資料その他でも「医療情報化推進協議会」とか「医療情報化IT推進協議会」、「病院IT化普及協議会」などとぶれています。最後に「日本語名は使わないで」と念押しさせていただこうかとも思ったのですが、医療IT推進協議会と紛らわしい名称が出てしまって申し訳ありません。マイクロソフト社に代わって私からお詫び申し上げます。座長はつらいです。何で私なんかが座長なんだろうとお思いの方も多いと思いますが、たぶん私のところが、小田急サザンタワーから一番交通の便が良かったからだろうと。。。

 だいたい英語でも(Connected Health A* Round Table)となっていて、A*のところは不定なのです。私は「日産自動車のコマーシャル」と呼んでいますが、正式にはCHARTというのは、下のように表記するのが正しいです(笑)。でも、マ社の発表資料には(Connected Healthcare A* Round Table)となっているんです。たぶんこっちの方が広まっちゃうんだろうなぁ。も少ししっかりしてほしかったです。。。

Chart

おまけ たぶん誰も気づかないと思うので書いておきますが、この記事のタイトルは親指シフトを駆使される作家として有名(?)な姫野カオルコさんへのオマージュになっています。私にはモウチョウの手術痕がないので、日経新聞の方にお灸を据えられないのが残念です。


業務連絡 私の名前を誤変換してる記事を書かれたあなた、ついでの時にでも直してくださると嬉しいです。

2007/7/13 追記 「標準的紹介状の仕組み」を「標準的電子紹介状の仕組み(SS-MIX)」に

2007/7/16 追記
 冒頭に書いていますマイクロソフトのプレスリリースですが、11日の時点とは内容が変わっています。「医療IT推進協議会と紛らわしい名称」はなくなっていますね。

下記団体がWebサイトに告知を出されていましたのでリンクしておきます。
 日本HL7協会
 日本医療情報学会

2007/7/30 追記
 当初のCHARTの日本語名が、医療情報標準化推進協議会とも類似して紛らわしかったとの話を聞きましたので、リンクを追加します。

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