電子カルテには「落とし穴」がある-想起性の問題
何かと忙しい時期ですが、これは是非取り上げたいと思います。
リンク: 医学書院/医学界新聞【〔寄稿〕研修医がきれいにまとめた電子カルテには「落とし穴」がある(江村正)】(第2760号 2007年12月10日).
電子カルテの教育上のデメリットとして下記の3つを挙げておられます。
1)コピー&ペーストができる弊害
2)書(描)かない・書(描)けない弊害
3)現場以外でも入力できる弊害
いやすばらしい指摘だと感心するとともに、自分たちもこのままで良いのだろうかと不安になっています。
私は厚生労働省の新任職員の方や、電子カルテについて教えて欲しいという方々に「電子カルテ」のお話をさせていただく機会がよくあるのですが、いつも電子カルテの功罪について次のような表を出しています。
狭義の電子カルテによる効果と課題
○誤読の減少、医療者間の情報共有の促進
○可用性、検索性の向上
○保管スペースの節約・紛失なし・長期保存
○テンプレートによる記述の標準化
○診療録開示の容易性
○医療連携上の利点、生涯カルテ(EHR)の可能性△一覧性、俯瞰性の低下(改善の余地あり)
△想起性の低下
△職種間連携、チーム医療支援機能の不足
△目に見える医業収入上の効果はない
私も「2)書(描)かない・書(描)けない弊害」については、想起性の問題としてあげていましたが、1)と3)も考えさせられます。
1)についてですが、従来私の施設では、わざわざコピー&ペーストができないように改造してありました。しかし現場の不満が強く、今後はコピー&ペースト可能なシステムにしようとしています。
3)についても漠然とした不安は抱いていました。私の所にはベッドサイド端末というものがあります。ナースが現場にいながら一部の記録ができる良いシステムだと思います。ナースについては3)の問題解決に役立っているだろうと思う一方、ドクターをベッドサイドに貼り付ける効果はほとんどないようです。
今後は、1)3)の対策も考えなくてはと思います。
で、本題は2)の「想起性」です。以前あるメーリングリストかWeb討論会に書いたと思いますが、手書きカルテは想起性に優れています。
紙カルテに手書きで記録したカルテを本人が後で読み返すと、その筆跡が呼び水のような役割を果たして、その時の診療場面をビデオテープを再生するように思い出す助けになるというのです。私もそう思います。似たような経験をもつ臨床医の方も多いでしょう。
ですから、シェーマに○を付けるのではなく、図から描いた方が良いと思います。紙に書いたものをスキャン保存するのがベストだと思います。ペンタブレットなどで直接画面に描く方法も同様の想起性を持つと考えられますが、これについて今後の研究課題だと思います。
これは1)にも関連しますが、ではキーボードで打った文章は、手書きの文章と比較して想起性が劣るのか?という問題があります。これは次回のお楽しみにしましょう。
2007/12/13追記
キーボードで打った文章の想起性ですが、最近「これは」という経験をしました。私は2007年2月から、打ち合わせや会議のメモをマイクロソフトのOneNoteで記録するようにしています。ノートの上のタブを月ごとに分け、右側には日付のついたノートが並ぶようにしています。
今年2月のノートをいくつか読み返してみると、「そういえばあの部屋で誰と話したっけ」と確かにその場面が思い出されます。別に手書きでなくても良いようです。
むしろ重要ではないかと思うのは、このノートが(カルテのように)時系列できれいに整理されている点です。前後の出来事と一緒に見るから、記憶が呼び覚まされやすいのでは……と思いました。電子カルテでも、表示やブラウズ方法の改善次第で想起性を上げることができそうに思いました。この点もぜひどなたかに研究していただけると助かります(笑)。
OneNoteについては、知ってはいたのですが活用は奥手になってしまいました。しかし、今回うまく使えば想起性の点でも有利なことを実感しました。最近では検索機能をずいぶん便利に使っています。
「どっかに書いた覚えがあるんだけど……」というときには瞬時に的確な答えをくれます。このアプリケーションは、そのままでも電子カルテの記載部分を担える可能性があるように思いました。いまどきの研修医が院内でノートパソコンを持ち歩けるのかどうかわかりませんが、これからはタブレットPCにOneNoteという研修医も出てくるかもしれませんね。
おまけ
私が研修医の頃は、医局が狭くて机なんて2人にひとつでした。そのため結局のところ朝から晩まで病棟にいました。そのぶん学ぶことも多かったし、良いこともたくさんありました。
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