電子診断書作成支援システムへの疑問
生命保険協会が医師の診断書作成を支援するため、診断書の電子化ソフトの普及に取り組むのだそうです。以前(正しくはどこかの学会のランチョンセミナーでMEDI-Papyrusの紹介を見たときから)気になっていたのですが、この手のソフトウェアは本来不要なはずです。
この事業は、本来当たり前のことが実現されていれば必要性の薄い、それも自分たちの業界で作っているソフトウェアの販売を促進するのが目的なのではという疑問がぬぐえません。
リンク: (社)生命保険協会|診断書の機械印字化ソフト認定について.
リンク: 電子診断書作成支援システム.特開2006-85684だそうです。かなりな長文。落胆しそうなのでほとんど読んでいません。
ワープロが日本に登場したころから、生命保険会社の入院証明書をこれで処理しようということを、多くの人が考えたと思います。生命保険会社が診断書の書式を統一してくれていたら、もしくは私製の入院証明書を問題なく受け取ってくれていたら、現在のような問題は起きなかったのです。この間20年以上経っています。
私も臨床の第一線にいた頃は、ワープロやファイルメーカーで記入支援システムを作ったりしてみたのですが、各社書式がたくさんあるのと、書く診断書の枚数がさほどないので、本腰は入れませんでした。コピーしたものに押印するのは認められるというので、そうすることですませていました。同様なシステムを作って公開してくれている方もいます(Theご紹介)。
さて、世の中は電子カルテの時代になってきました。富士通の製品を例に取ると、たとえ200社の200種類の診断書があろうとも、そのひな形をMicrosoft Wordのファイルとして電子カルテに登録しておけばすむことです。
今の職場に来て、医師の方から入院証明書問題を解決できない理由を教わりました。保険会社が書式を提供してくれないのだそうです。そのとき私の頭には、当然次の疑念が浮かんだのです。
「これはMEDI-Papyrusを買わせるための陰謀的障壁にちがいない」事実かどうかは確認していませんので、これ以上のコメントは差し控えたいと思いますが、それから2年。結局今に至るまで入院証明書の電子化は実現していません。
問題の解決は難しくないと思います。いろんな方法があります。保険会社や当局がいずれかの対応をとっていただきたいです。
○部分的でも良いので統一した様式を定める。
○各社の電子カルテにテンプレートを無償で提供する。
○当局は入力できるPDF Form(のようなもの。Infopathでも一太郎XMLでも可)も必ず作るよう指導する。
○各社は私製の診断書を受け入れる。
初期導入費の一部を協会が補助してくれるみたいですが、この手のソフトウェアを導入すると、ハードウェア購入費、ソフトウェア購入費、ハードとソフトの保守費がかかります。おまけに次の但し書きが。
※「運用費」及び病院毎のカスタマイズ費用(電子カルテ・オーダリングとの接続費)については補助金の対象外とさせていただきます。普通カスタマイズや接続費もバカにならない金額なんですよね。。。
入院証明書の発行手数料は、患者が医療機関に払います。これを導入することで、手数料が下がるでしょうか?ひょっとすると導入・保守費を手数料に転嫁する医療機関だってあるかもしれません。本来必要でないソフトウェアの購入促進策で、業者が潤うだけ……とならないことを祈ります。
ちょっと検索してみたら、「入院証明書」という専用のカテゴリーを持つブログがありました。私が多くを語る余地はなさそうです。敬意をこめてトラックバックを送らせていただきます。
リンク: [入院証明書] -「エレキも医療も整備しなきゃ。」さん.
代表的記事: 診断書ソフト?なんじゃそりゃ。 - エレキも医療も整備しなきゃ。.
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コメント
おジャマいたします。
TBとリンクありがとうございました。あのブログ自体、私がテキトーに書き散らしただけのものなので申し訳ない限りです。
入院証明書に関しては、電子カルテソフト自体もそうなのかも知れませんが、業界全体での統一が必要じゃないでしょうかね。そうしないと、患者さん、医療機関に負担を強いるばかりで決していいことは無いように思います。
今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: mosriteowner | 2008/01/06 19:08
mosriteownerさん、わざわざおいで下さいましてありがとうございました。私などは思うだけで行動していませんので、頭が下がります。今後もこの問題をリードしていってくださいませ。
投稿: ynb | 2008/01/08 00:20
Yamanobe先生 こんにちは。
いつも読ませて頂いております。
生命保険協会の「診断書の機械印字化ソフト認定について」の件、あきらかに時代に逆行していると思います。
医師不足や医師の負担増、それらを含めて医療崩壊が叫ばれている中、医師の負担となっている診断書について全部とはいいませんが、ある程度統一化する動きをしてこそ、生命保険協会のあるべき姿だと思います。
また、認定ソフトは未だ、大手生保会社の子会社の開発したシステムのみです。しかもその大手生保会社社長が生保協会の会長だったりするので始末に負えません。
Yamanobe先生もご指摘の通り、対象システムの保守・運用費用が結構高かったりしますし、既存システムとの接続費用は対象システムより高いなんてこともざらです。(こちらは既存システムベンダーに問題有りですが。)
赤字経営の病院にとっては、120万円の補助に飛びついたが最後、導入すれば費用負担が増大することは必至です。
>○部分的でも良いので統一した様式を定める。
>○各社の電子カルテにテンプレートを無償で提供する。
>○当局は入力できるPDF Form(のようなもの。Infopathでも一太郎XMLでも可)も必ず作るよう指導する。
>○各社は私製の診断書を受け入れる。
先生ご指摘の上記項目を是非生保協会主導で実現して欲しいと願って止みません。。。
投稿: ijikacho | 2008/01/21 11:24
上からの圧力で導入したのですが、万が一、後に続くかたがたの為に、とりあえず、立てました。
http://www.freeml.com/medipapyrus
投稿: sawada | 2008/03/13 17:36