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2008/06/25

これが現実-揺らぐ電子カルテ三原則

昨年こんなことを書きました。
リンク: 揺らぐ電子カルテ三原則.

 今年のSeagaia Meetingでは、大橋克洋先生から”裁判の証拠として「電子カルテ」はどう対応すればよいか ”というご発表があったようです。私は参加できませんでしたが、大変わかりやすい資料が載っています。

 私のところでは、電子カルテシステムの更新時にベンダが変わるとデータ移行が困難であろうという予想から、いざというときには旧システムと新システムのデータの両方を、第三者ともいえる長期保存系システムにコピーし、それをいわば「原本」としてデータの継続的な可用性を確保しようと考えていました。
 結局、従来と同じベンダが落札、変更がなかったので、旧システムから新システムへのデータ移行が普通に行われました。

 しかし3か月が経ってわかってきたのは、旧システムには存在しているのに、新システムで見えないデータがあるということです。移行作業のミスと思われます。順次改修されると思いますが、これでは旧システムの撤去は当分のあいだ延期となりそうです。

 また、データを移行した長期保存系システムの患者データを表示するグラフには、こんなミスがみつかりました。

080625

データと項目がずれてしまっています。これが電子カルテとその更新における現実です。
 これを「よくあるちょっとした初歩的作業ミス」ととるか、「あってはならない致命的ミス」と受け取るかによって、この事態の影響度も違ってくるのだろうと思います。でも、医療ITにかけられる費用を考えれば、完璧な品質を求めるより不完全でも改善を続けていくべきだと思います。早期に発見して前者の段階で止めるのが私たちの仕事なのかも知れません。

 「日本一高価な電子カルテシステム」でも実情はこんなものです。しかし、私たちはこれからも電子カルテシステムを使い続けてゆきます。もはや質の高いチーム医療を支える情報共有のツールとしては欠かせないものだからです。できないことはまだたくさんありますが、6年前に比べれば格段に進歩しており、ためてきたデータの原石から、少しずつ光るものも出せるようになってきています。

 さらに、それとは別に我々はいくつか別の武器も手に入れつつあります。これからしばらく楽しめそう。ふふふ。

続報 電子カルテも3原則はやめて4原則にしよう

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コメント

Yamanobe先生 こんにちは。
そもそも「電子カルテの3原則」ってどういう基準(規格)で満たしているといえるのでしょうか?
保存方法や方式等もベンダー毎に異なる方法で実現しているでしょうし、それを判定したり認定する機関もない(?)でしょうから、判断が困難かと思うのですが。

大手ベンダーだと大丈夫で、小さなソフトハウスが作ったらダメって訳でも無いでしょうし、、、

「当社の電子カルテは3原則を満たしています。」
って宣言したらそれでO.K.というのが実情でしょうか???

投稿: ijikacho | 2008/07/03 18:47

コメントありがとうございました。最終的には運用する施設の側での自己責任ということだと思います。

下記の通知とガイドラインが原点なわけですが、
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1104/h0423-1_10.html
付帯文書にはこのように書いてあります。「今回の通知は規制緩和の一環であり、電子媒体に保存したい施設が自己責任において実施することを妨げないことを確認するためのもの」

例えば、下記でも充分だと思います。
「当診療所の電子カルテはMicrosoft Wordに書いています。記入するためにパスワード等の管理はありませんが、パソコンを起動するには鍵が必要で院長しか持っておらず、他人が書くことは事実上不可能です。書いた内容は毎回プリントアウトして患者さんにお渡しし、毎日CD-Rにバックアップを取って貸倉庫に郵送保管しています」

 病院の場合でも、このような原理の拡張でカバーできると思います。システム上に脆弱性があっても、運用規程・職員教育・証跡保存・監査等の体制整備で第三者を納得させられれば良いのではないでしょうか。

投稿: ynb | 2008/07/05 18:32

はじめまして。
電子カルテのデータ移行の問題について検索していたら、
先生のこのページにたどり着きました。

私は、某病院(1000床前後)にて、現在電子カルテ導入を進める部署に所属しています。
現在オーダリングの更新時期を迎えたため、電子カルテを含むHISのリプレイスを検討しています。

その構築要件の中で、さらに5年~6年後のHISリプレイスに備えて、「カルテの継続」を命題として
カルテ記事+各種検査結果・レポート+スキャニング文書をPDF(テキスト情報OCR付)で保存し、
HISベンダとは切り離されたファイルサーバー、もしくはPACSサーバーに統合ファイリングする仕組みを考えています。
当然PDFという、いわば「絵」にしてしまう為、データの二次利用をする形で継続はできませんが、
必要最低限、「見える」ことを担保できる手段なのではないかと思っています。
(原本とするには、電子署名とタイムスタンプ付加の問題はありますが)
ただ、大分で先日行われた某会議でも大手ベンダさんがとりあげていましたが、
XML+スタイルシートという形でも、継続性が担保されるのであれば・・・と、若干の悩みが生じております。
先生が上記文中で触れておられます、「第三者ともいえる長期保存系システム」とはどのようなものなのでしょうか?
また、電子カルテにおいてベンダ変更が生じた場合はどのような手段が現実的であるとお考えでしょうか?
ご教示頂ければ幸いです。

投稿: casamatta | 2009/02/23 10:27

コメントありがとうございました。私は「XML+スタイルシート」の間は別会場にいて聞き逃しました。。。

「第三者ともいえる長期保存系システム」というのは、データウェアハウスとかクリニカル・データ・リポジトリとかいった、検索系のシステムを考えていました。現在この手のシステムは、障害時バックアップ、高速検索に加えて長期保管の役割も担えるようになっていると思います。
 私は最近では、電子カルテを含む病院情報システムは、基幹本番系、上記の「検索系」に加えてお書きになったような「凍結系」を備えるべきではないかと考えています。ただ,両者に格納するデータは基幹システムのみならず全部門システムをカバーすべきでしょう。この凍結系は当面PACSの派生品が担当すると思いますが,将来は一般企業向けの製品を念頭に置いています。
 検索系はデータの保存性と可用性を、凍結系はデータの外見の保存性と可用性(見読性)を担当し、両者が揃っていれば電子署名等が(コストの関係で)不十分でも真正性を高められるだろうと考えています。
 電子カルテのベンダ変更があっても、この2つで旧本番系のデータをすべてカバーしてあれば、新本番系へのデータ移行を最小限にとどめられるのではないかと思っています。次々期のシステムにデータを引き継ぐための仕様書等の書き方については、大分で話が出てたと思いますので省略します。書いても実現しないこともありますが。

投稿: ynb | 2009/02/23 14:13

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