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2008/07/10

日本型PHRはCloudよりも携帯電話でP2P?

学会の感想を書くつもりが、大きく膨らんでしまいました。

 日本病院学会の「電子カルテと標準化」のシンポジウムを聴いてきました。看板と中身は異なり、病院発の医療IT、看護ITの実践報告という感じでした。シンポジストの顔ぶれで予想はしていましたが、それ以上に良い意味で裏切られた企画だったと思います。
 ここでの発表やディスカッションを見ていて、日本型PHR(Personal Health Record)は、政府や行政主導型のRHIO,NHINなどのEHRでなく、Google HealthやMicrosoft HealtVaultなどCloud Computing型EHRの日本語版でもなく、「携帯電話等のストレージ(メモリ)を核としたP2P(Peer to Peer)型になるのではないか」という感想を持ちました。「未踏」のK先生には「今頃気づきましたか」と言われそうですが(笑)。

背景

 6月の医療マネジメント学会の地域連携関連のプログラムを聞きながら思っていたのは、「地域連携医療を支えるIT基盤が欲しい、でも姿が見えない」ということでした。


Data Center型は予算不足

 従来から日本で試されてきた地域医療連携のIT化をひとくくりにすると、データセンター型と言えると思います。その中には大きく2つあり、ひとつは病院情報システムに地域向けサーバを置いて、地域の医療機関が見にいくタイプです。私は「中核病院型」または「あじさいネット型」と呼んでいます(他の先行有名施設の方々すみません)。もうひとつは、医療機関以外の医師会やNPO法人等がデータセンターを受け持つ、「地域サーバ型」または「Net4U型」です。日本型RHIO(Regional Health Information Organization)とも言えるかも知れません。

 これらも一長一短です。中核病院型は、病院情報システムと一緒に運用できるので比較的維持が楽ですが、乱暴にいえば地域全体の患者がその病院のIDを持つ必要があります。地域サーバ型は実施主体の財政基盤のあり方、継続性が問題となります。

Cloud型は日本では無理

 米国では最近Microsoft HealthVaultやGoogle HealthなどのPHRが立ち上がっており、今後も使われるのではと思います。しかし、これらCloud型のPHRは、データの実体がどこにあるかわからないわけで、「データのありか」を重視する従来の日本のスタンスとは大きく異なります。おそらく日本はその溝を跳び越えることは不可能、つまり日本ではCloud型のPHRは認められないだろうと私は思いました。患者の立場としても、「自分のデータが世界中のどこかわからない、世界制覇を企んでるかも知れない会社のサーバにあって、ひょっとしたら欧米の製薬会社の開発のためにデータが使われたりしないか」なんて考えると、不安になる方も多いでしょう。

ガラパゴス化とはいえ、日本には携帯電話がある

 本当に最近の携帯電話は便利です。テレビも見られて電車に乗れて地図上の位置もわかるし買い物ができて写真も撮れる。そのためにギガバイトのストレージが。最近では歩数や消費カロリー計算までもしてくれる。以前携帯電話はIS&Cの媒体となるかでも書きましたが、これを使わない手はないだろうと思います。

 じゃあバックアップはどうするのかと考えたときに、P2Pが登場するわけです。患者の医療情報の原本は携帯電話のメモリに置くようにするのです。医療機関を受診すると、そこのサーバにコピーができ、その後は携帯電話がオンラインになった都度、同期されるようにするのです。患者がA病院からB医院に紹介されて受診したら、B医院のパソコンにもコピーができる。これで患者の受診した医療機関ではいつでもデータが見られることになります。知らない医療機関にデータを見られる心配もありません。

 万一携帯電話を紛失したり、壊した場合も、医療機関のどこかからデータが戻せるでしょう。データの削除も柔軟にできます。患者が死亡したとか120歳になったとか、数年程度受診がない等の一定の条件の下に、最初の同意時に決めたデータ消去ポリシに基づいて、医療機関側のそれぞれのコピーを削除すれば良いでしょう。もちろん患者自身が携帯電話のメモリから消去することもできます。こうすることで、患者はデータの自己コントロール権を保持することも可能ではないでしょうか。

 暴走ついでに、日本国民一人一人に携帯電話番号を割り当ててしまえばよいと思います。もちろん政府がやるといろいろと問題になるので、携帯電話会社が、持たない人のために無料で番号だけ割り振るサービスを提供するのです。出産祝いにさっそく携帯電話番号をプレゼント、大きくなって自社の電話を買ってくれれば端末料金無料とか。

以上、CHARTの場でマイクロソフト社のGrooveを紹介いただいていろいろ試している合間に、日本病院学会のシンポジウムを聴いて考えたことでした。

 日本病院学会での神野正博先生の言葉が印象に残ったのでメモから貼り付けます。

医療制度はいろんなものがある。医療、介護、福祉、保健。しかし利用者視点では制度は知ったことではない。これをつないであげるのが私たちの役割。さらには病院、施設間連携、地域連携、その後雇用確保、地域振興まで含めたCSRまで担うのが医療の真の役割だろう。

きょうはもともとこれを書き留めるために書き始めたのでした(笑)。

参考

私には難しい内容であることが多いのですが、いつも勉強させてもらっています。
≫ 米国最大手HMOがマイクロソフト社Health Vaultを採用" by TOBYO開発ブログさん.

シーガイアミーティング2008の荒木先生のプレゼン(PDF)の末尾、「病診連携の2つの方式」(病院主導、第一線主導)も参考になりました。

「RHIOとは」で出てきた沖縄県医師会報の平成18年度日本医師会医療情報システム協議会のページ、事例が豊富です。

こんなのがあったのですね。まだ良く読んでいませんが。ザカティーコンサルティングのサイト
日本版PHRを活用した新たな健康サービス研究会 報告書
「個人が健康情報を管理・活用する時代に向けて」 ~パーソナルヘルスレコード(PHR)システムの現状と将来~

「医療連携とIT」で検索するとここが出てきました。ドメイン名と団体名と先見の明。すみません、今まで存じませんでした。
グループウェアで始める医療連携

玉石混淆ですが、「地域医療連携 電子カルテ」で検索するのも面白いようです。

2008/07/15 追記
京都大学の吉原博幸先生の「Dolphin Project 地域医療連携システムの現状」(PDF)をみつけましたので追記します。このようにData Center型PHRも技術的にはほぼできあがっているのでしょうけれど。

地域サイトをまたがって分散記録された医療情報の統合が可能となり,国レベルでの1患者,1カルテの実現が可能となった.

2008/09/05 追記
IT戦略本部で電子私書箱(仮称)の検討が始まったようです。よくわからんです。おまとめ照会サービスを拡張しても足りるような気もしますが。

2008/09/11 追記
携帯電話を使って患者主導で自己コントロール権が使えるようにするには、DRM(Digital Rights Management)が必要になってきます。この辺を勉強する目的も兼ねてinternetdisk DRMを試用中です。なかなか面白いです。

2009/06/07 追記

まだリンク切れのページが多いですが、ライフレコード(alpha版)というサイトができていました。

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コメント

同意します。
せっかく各種インターフェイスを備えた高機能のコンピュータを持ち歩いているのですからこれを使わない手はないでしょう。
また、標準化も携帯電話でも使えるレベルを目指すべきです。
となるとXML basicもしくはテキストその物をうまくデザインすることになると思います。

投稿: Dr.Y | 2008/07/10 23:27

ありがとうございます。「XML basic」って何だ?と思ったのですが、XHTML Basicでよいですよね。
iPhoneも売れているようですが、あすは有明で元祖aiphoneを触って来ようと思います。

投稿: ynb | 2008/07/15 21:26

お久しぶりです。

5年位前に健診の親玉のところへ同じ話を持ち込みましたが、「ケータイが何を言っている?」と取り合いませんでしたね。
お役所も。
やっと追いついてきた感がありますが、まだまだ。
「シルバーシートの近くではケータイの電源を切ってください」というアナウンスを通勤電車の中で毎日平均45回も聞いています。

医療現場とケータイ電話。どうしてこんなに相性が悪くなってしまったのでしょう。

投稿: 素人裸足 | 2008/08/29 15:57

素人裸足さま、お久しぶりです。
 2011年までに社会保障カードがコケたりすると、いよいよ携帯電話の出番かもしれませんね。。

そういえば先日飛行機の中で見た映画で主人公が友達の出したiPhoneを突っ返していましたが、
http://www.pinoytux.com/others/iphone-stumped-carrie-bradshaw
まだauのスマートフォンが出てきていないこともあり、私のお供は当面INFOBAR2で安泰なようです。

投稿: ynb | 2008/09/05 20:56

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