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2010/05/21

電子カルテや病院システムのクラウド化をまじめに考えてみる

この発表にも関連しますが、

リンク: 小規模病院向け電子カルテシステムをSaaS型で提供する「MegaOakSR for SaaS」発売(2010年5月10日): プレスリリース | NEC.

 ビジネスマンのサービスレベルの話を書いた直後の今日、いつもお世話になっている出版社の人とお話ししながら、プライベートクラウド型の病院情報システムのあり方について考え直したので書いてみます。

雑誌の連載にも書いたような気がしますが、病院情報システムをクラウド化しようとする際に、まず気になる点は3つです。

 1.クラウドへの回線がダウンすると情報の暗闇で手探り状態になる
 2.サービスレベルとセキュリティの要求が高く、期待するコストとつり合わない
 3.システムダウンの時に復旧の見通しが立たない

1.は、暗闇で自動車を運転中にライトが消えてしまうようなもので、完全にクラウドに依存していたらまさにお手上げです。ただこれについては回線を二重化すればある程度リスクを軽減できそうです。ただ、その手法は考える余地があります。私の職場の場合は仮にNTT東日本とUSENの2社の回線を契約したとしても、光ケーブル自体は同じNTTの局舎から来ているので、その間の道路を掘り返されてケーブル切断となれば同時に途絶してしまいます。予備回線はWiMAXとか、かなり毛色の違う回線を考えれば、ある程度安心できそうに思います。ただ、元日午前0時に携帯電話がかかりにくくなるように、混雑時や災害時でも通信が確保される必要があります。まぁそうならないのがMedical Grade Networkなのでしょうけれど。

2.も気になるところです。サービスレベル99.9%なら年間8時間半、99.99%なら年間50分の停止です。ただ、普通の医療機関の感覚では「年間50分の停止は覚悟できます」とはとても言えないと思います。かかりつけの患者が急変して担ぎ込まれた時に「ちょうどダウン」では困るからです。ちなみに、私の職場のシステムの過去1年のサービスレベルは、昼間は基幹サーバだけなら100%、システム全体で見れば99.95%、夜間は保守停止や定期再起動があるので基幹99.99%、全体99.5%という感じです。
 結局はクラウド業者も2重化する必要があるでしょう。99.99%の1社より、99.9%の2社が良いかもしれません。2社にすると安全性は高いですが、データの複製が大変そうに思います。同じ会社でも沖縄データセンターと北海道データセンターの2重化という方法はありそうですが、管理システムがダウンして両方使えないというリスクは残ります。
 こう考えてくると、2重化でクラウドを使うより、クラウドとオンプレミス(手元サーバ)の併用というのが良さそうに思います。私の職場のシステムも、日常運用系と別に後利用と非常時参照を兼ねたシステムが備わっていて、日常運用系のダウン時にそれを見て診療するようになっていますが、実際はまず使いません。日常運用系をクラウドにして、非常系を手元にするか、手元に運用系を置いて、非常系をクラウドにするか、一長一短で迷いそうですが、まずは非常系をクラウドとするのが取っつきやすくて良さそうに思います。そうすると、結局前に書いた、オンプレミスの病院情報システムのバックアップ&データリポジトリをプライベートクラウドに置くという方法に行き着いてしまいました。
 結論としては、単独のクラウドではダメで、他のクラウドかオンプレミスとの併用が望ましいということです。あと、医療クラウド障害用賠償保険という商品もあると良いかもしれません。

3.いろいろ考えてみても未解決なのがこの問題です。クラウドに障害が起きると、設備が共用なわけですから業者との連絡は困難になります。これは月額1000円のレンタルサーバで経験することですが、月額100万円でも難しいように思います。月額1000万円なら大丈夫かな?
 幸い連絡が取れたとしても、問題なのは自分なりの復旧の見通しが立てられないことです。私の職場でもいろいろな障害が起きますが、CPU室で対応するスタッフの背中を見ている経験を積むことで、だいたいの復旧見通しが立てられるようになってきます。

SEを呼んで現場到着まで1時間,この種の復旧に要する作業時間がいつも30分くらいだから、お昼頃には直るかな。

という具合です。業者が言う見通しと、自分で考える見通しの両方で判断することができるのです。

業者は2時間と言うけれど、案外これは4時間くらいかかりそうだな。

という場合などは、最初から4時間のつもりで院内に対策をお願いします。また、

彼が2時間と言うからにはそれを信じて大丈夫だろう。

という場合もあります。しかしクラウドの障害では、電話の向こうの知らない相手の言うことを信じるしかありません。2時間と言うので信じて待っていたけれど、2時間経ってみると「すみません、まだです。見通しはなんとも言えません」という事態が予想されるのです。

この問題があるので、どうも私は病院情報システムのクラウド化に気乗りがしないのです。

おまけ
 いま見直して気づいたのですが、MegaOakSR for SaaSって、医事会計システムは提供しないのですね。よく考えてみればもっともな話ですが、医事会計こそSaaSにしてほしいわけで、惜しい気がします。

2010/06/01 追記
 今年も行けなかったのですが、Seagaia Meetingでの木村先生の講演資料が勉強になるのでリンクしておきます。

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