講演や学会発表をトークライブの域に
今年9月末の診療情報管理学会以来、私の講演が変化していることにお気づきの方もいらっしゃるかもしれません。「あの人、おかしくなってしまったのかしら」と思われてるかも。現実に「芸風が変わりましたね」と言われたこともあります。そうです。確かに私の講演は可笑しくなったのです。大まじめに意識してやっているのですけれど。
今年の後半から、受講したセミナーや雑誌の特集、書物などで、講演の「つかみ」「まくら」「ユーモア」の重要性を目にすることが多くなっていました。
夏頃から、講演の前に「つかみ」を入れるように心がけていましたが、急造のアドリブの域を出ませんでした。9月の学会で初めて、前日から「笑わせどころ」を意識して準備するようにしました。その結果、全部で3パターンのネタを出すことができました。
最初は準備した『つかみ』。「私はこの学会を迎えるまでの3ヶ月間、どうやったら良いのかずっと悩んできました」と切り出しました。しかし悩んでいたのは学会発表内容のことではなく、「京都の学会で購入したお土産用の新撰組の半被を、9月の学会の懇親会で、どうやってある人にサプライズで羽織らせるか」であったということをスライド1枚で説明しました。大舞台でも緊張しないよう、前日から周到にリハーサルを重ねました。
ふたつめは『スライドの掛詞(かけことば)』です。前日に講演資料を見直していたところ、プレゼン画面の中に、「医師にとっても有益」という記述がありました。それがイントネーションを変えることで、"also useful"と"very useful"の2つの意味に受け取れるなぁとぼんやり思っていたのですが、当日の講演中に少し時間が余りそうだったところでそのくだりにさしかかったので、とっさにその両方の発音を披露してみることができました。
3つめは『無意識』です。討論のところで「フラットな組織」の有用性を説いたのですが、その例として「事務職員が院長室にふらふらっと入れるような」と言ってしまったのです。言った直後にだじゃれになっていることに自分で気づいて「しまった」と思ったのですが、「まぁいいか、無意識にダジャレが出るようになればたいしたものかも」と思い直したのでした。
「イチローのセカンドゴロ」という逸話があります。メジャーリーグ選手のイチローが、ある打席のセカンドゴロで、「こう打てばこう飛ぶ」というような打撃のコツのようなものを発見したというのです。
九十九年四月十一日、日曜日、ナゴヤドームでの西武戦です。三連戦の最終ゲーム。その9回、トップバッターだった僕は、リリーフ登板した西崎さんにボテボテのセカンドゴロに打ち取られたんです。……僕は最悪のセカンドゴロだったのですが、次の瞬間嘘のように目の前の霧が晴れたんですよ。「ああッ、これなんだ!」と思いました。これまで、探し求めていたタイミングと体の動きを一瞬で見つけることが出来た。それをあやふやなイメージではなく、頭と体で完全に理解することができたんですよ。(小松成美著/新潮社「イチロー・インタビュー Attack the Pinnacle!」)
結果は凡打でも天啓を得る。私の9月のあの日の発表は、ちょっとそれに似た直観体験だったように思います。その後は講演の機会があれば必ず「マクラ」を入れるように決めています。多少の無理があってもウケなくても、精進のために続ける覚悟でいます。学会などでも、まじめな学術発表なのに、楽しく聞けて飽きさせず、頭に残るというものがあれば理想的だと思いました。
最近、昔の政治家による挨拶の言葉を聞く機会がありました。短い話の中にも、きちんと笑いどころや泣かせどころがちりばめてありました。あの話が口から自然に出ているのか、きちんと計算してなされているのかもわかりません。しかしその場にいた人の心に染みわたり惹きつけて放さなかったのは確かで、多くの聴衆が話者のことが好きになっただろうと思います。私もその域にまで達することができればと思いますが、当分難しいようです。
「2012年にはこれを高座にかけられるように」と心に期するネタがあるのですが、なかなか難しいので、いつの日か実現することを祈りつつ、稽古を重ねたいと思っています。
2013/01/27 追記
そのネタは、完全な形ではありませんが、第13回日本医療情報学会看護学術大会のランチョンセミナーで初演することができました。
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