手術前の同意書はそもそも必要ない
院内では前から主張していて、医療安全管理部長の意見といえどもコンセンサスがまだ充分得られていない印象ですが(笑)、ある人から「治療前の同意書は、なんで電子化がなかなか進まないのですか?」と聞かれたので、日頃考えていることを公開します。
差額ベッド(特別療養環境室)や輸血を除き、この手の同意書は本来不要なのです。
多くの場面で同意を得ることは必要です。でも、それすなわち同意書を作成することではありません。
私の職場でも、手術前はもちろん、検査のための造影剤の使用前や破傷風の予防注射前にも同意書に署名してもらっています。今日の手術前にもそうしました。これがよくある医療機関の姿だと思いますが、わたし個人としてはそれらはすべて不要だと考えています。
診療録に説明内容と、同意を得た旨を記載しておけば良いのです。
医師法にはこう規定されています。罰則もあります。
第二十四条 医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。
第三十三条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
一 第六条第三項、第十八条、第二十条から第二十二条まで又は第二十四条の規定に違反した者
また電子カルテの場合、診療録に虚偽の事実を記載すると、刑法犯になる可能性が大です。
(電磁的記録不正作出及び供用)
第百六十一条の二 人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
いっぽう、「手術前には同意書を作成し患者の署名を得ること」といった法規はないはずです。
厚生労働省が「同意」についての公式見解を示している例が下記「がん患者指導管理料」にかかる疑義照会(PDF)です。
(問13)がん患者指導管理料について、「当該患者の同意を得て」となっているが、患者の同意を得ている旨をカルテ等に記録することで要件は満たされるか。
(答) そのとおり。
ただ、一部には「同意書を作成し患者の署名を得て保存すること」という例もあります。
差額ベッド(特別療養環境室)について(埼玉県のサイト)
厚生労働省事務連絡
特別療養環境室へ入院させた場合においては、次の事項を履行するものであること。 (中略) ② 特別療養環境室への入院を希望する患者に対しては、特別療養環境室の設備構造、料金等について明確かつ懇切丁寧に説明し、患者側の同意を確認のうえ入院させること。 ③ この同意の確認は、料金等を明示した文書に患者側の署名を受けることにより行うものであること。なお、この文書は、当該保険医療機関が保存し、必要に応じ提示できるようにしておくこと。
患者又はその家族が理解できる言葉で,輸血療法にかかわる以下の項目を十分に説明し,同意を得た上で同意書を作成し,一部は患者に渡し,一部は診療録に添付しておく(電子カルテにおいては適切に記録を保管する)。
ですから、このような明確な通知や省令などがないかぎりは、「同意書を作成し患者の署名を得て保存する」必要は無いのです。
もちろん、「私はそんな説明を受けていない、同意していない」という訴えはあるでしょうし、紛争もあるでしょう。でもそういう場合は、医師を医師法違反や電磁的記録不正作出及び供用の罪で告発すれば良いのです。
私は手術前にはいちおう同意書もお渡しして署名をいただいてはいますが、「患者本人に説明書を用いて手術の説明をし、同意を得た」と診療録に記載し、説明書を添付しています。
参考文献 手術同意書における患者押印の必要性に関する医療従事者と患者の意識調査(PDF) 日外科系連会誌37(1):29–33,2012
一般に,医療契約は諾成契約である準委任契約(民法656,643条)とされており1),契約成立に文書は不要である.また,契約に基づく個別具体的な医療行為についても,書面が要求されているわけではない. しかし,医療契約では説明の有無,その内容,同意の有無などは,後に紛争が生じた場合の重要な争点となりうるので,書面を残すことは紛争予防としての意義をもつ.
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