学術集会のオンライン開催で顕在化する参加費のジレンマ
副題:ご近所の愛ふたたび(1)
新型コロナウィルスによるCOVID-19の蔓延に伴い、学会などの学術集会のいくつかがオンライン開催(Web開催)に変更されつつあります。その参加費をどのくらいに設定すべきかを考えてみると、従来誰もが放置してきた集会参加費の問題が顕在化してくると思います。
学術集会のオンライン化、Web化は、パンドラの箱を開けてしまうことになるでしょう。
昨年秋に某学会の全国集会に参加した際、15年前に指摘した問題がまったく放置されたままになっていたことを思い出しました。(昔書いたこともあるんですが)そのことをこのブログに書きたいと思い、その頃雑誌に書いた記事の転載公開依頼をしたところ、編集部が快く許してくださいました。
私が書いていたのは、前身のJAMIC JOURNALに2005年4月から1年間連載していた「ご近所の愛」というエッセイです。今回はその第2回「裏録、W録、タイムマシン」を公開します。概要は次のようなものです。
学術集会に参加費を払っても見たい発表が見られないことがある。そもそも参加費は集会全体の何分の1かを見る権利を買っているに過ぎない。ペイパービューなど参加費体系を柔軟にして、追加料金を払えば全発表が見られる体制を整備すべき。
ご近所の愛 第2回 「裏録、W録、タイムマシン」
ジャミックジャーナル(現リクルートドクターズキャリア)2005年5月号より転載
さて、オンライン学術集会やWeb学術集会になると、登録者はすべての発表に触れることができます。リアルの集会では時間帯が重なってしまい、見られなかったかもしれない発表も見ることができます。こうして、上手に作られたオンラインでの学術集会を一度体験してしまうと、おそらく多くの参加者は「学術集会はオンラインの方が良い」という事実に気づいてしまうと思います。
そうすると、参加登録費としてお金をいくら取るのか、どこの事務局も悩むと思います。10会場で並行開催の集会の場合、通常の参加費は「会期中の1/10とかを見る権利」ですので、オンラインで全発表が見られるなら、通常の参加費より高くしたいところです。しかしそれが世間で受け入れられるとは思えません。オンラインだと会場の手配が要らないので、多くの場合費用も少なくて済むでしょう。
ついでに言えば、開催側としては、オンライン学会では「発表者が参加費を払わない」抜け穴を塞ぐ必要があります。リアルの集会であれば、通常一般演題の発表者はお金を払って参加します。なにかのアクシデントでもなければ、演題は出したのに参加しないという発表者は稀です。それでもポスターの張り逃げみたいなことが横行したのか、一部の学会では、発表者に事前参加登録を義務づけている例もあります。
15年前にも書いていますが、発表は事前視聴にして、リアルの集会では「選りすぐった発表に絞った討論と、懇親会だけ」という開催形態も検討されるでしょうし、学術集会の参加区分に「現地参加でなくオンライン参加」というカテゴリーが求められるかもしれません。
新型コロナウイルス蔓延以後の「ポスト COVID-19 時代」には、従来型の学術集会の何割かが、元通りの姿では開催できなくなっていくのではとも思います。
過去に新しい学術集会の実践例や構想を書いたことがあるので、合わせてご覧いただければと思います。
参考過去記事
なんでもaaS(3)学会運営の融解。サイバーアメーバ学会 2011/3
ついに実践エクストリーム・シンポジウム 2011/6
続報
オンライン学術集会のジレンマ(2)利点と注意点など比較してみた(仮題)
| 固定リンク | 0
コメント