テック国語学)カタカナ語を多用する専門家は要注意
新型コロナウィルスの蔓延に伴い、クラスター、オーバーシュートなど聞き慣れないカタカナ語が巷に溢れるようになりました。クラスターでなく感染者小集団、オーバーシュートでなく感染爆発と表現すれば済んだはずです。
「クラスター」とは、もともと塊や群れという意味です。感染疫学の分野で「感染者集団」の意味で用いられてはいたようですが、私も含め多くの人々にとって、コンピューターの記憶単位や、統計学分野のクラスター分析、またはクラスター爆弾といった多様な用例を持つ語でした(私の「クラスター」との出会いは、フロッピーディスクの「セクター」をまとめた単位としてでした)。今回、社会的に極めてインパクトの大きい状況下で「感染者集団」を安易にクラスターと呼称してしまったことで、わが国では他の意味を吹き飛ばしてしまった感があります。今後、クラスター分析を医学用語と誤解したり、クラスター爆弾を生物兵器と誤認する人が増えることを危惧しています。
「オーバーシュート」はクラスターに比べると馴染みが薄いものの、オーバーとシュートの組み合わせでわかるように、本来は「行き過ぎること」です。感染症の専門家にとっては「予想以上の感染爆発」もしくは「対策時を超える感染爆発」の意味なのかもしれませんが、英語圏ではさほど使われないという意見も見かけます。この用語を用いる必然性があったとは思えません。
ちなみに、私が初めてこの語に触れたのは、カセットデッキRS-M85の蛍光管(FL)メーターの宣伝文句で、針メーターのように慣性によるオーバーシュートがないと説明されていました。 私も若かったです。今にして思えば、ぼんやりとオレンジ色に照らされた機械メーターの方がずっと趣がありますよね。元画像は https://jp.technics.com/50th-anniversary/
私は「テック国語学」として、科学技術分野でのより良い用語のあり方を提言してきました。カタカナ語に限らず「認知症」は「認知障」とすべきでしたし、「バーチャル」を「仮想」と訳したのも多くの誤解を生んできました。最近よく紙面に登場する「オンライン診療」も、唐突に「遠隔診療」から改称された経緯に利益相反の疑いがあります。以前から、官僚も単なる看板の掛け替えをカタカナ語でごまかす傾向が強く要注意でした。
新型コロナ対策の専門家会議も何かの意図があってカタカナ語を使ったのかもしれませんが、それ以上に心配なのは無意識に使っている場合です。真の専門家は物事の本質を深く理解しているので、中学生にもわかるような説明ができるものです。それができずに海外からの受け売りのようなカタカナ語で表現してしまうとしたら、「専門家」でなく視野の狭い「専門バカ」と言われてもしかたがないでしょう。
ロックダウンも都市封鎖と何が違うのかいちいち補足説明が必要となります。国民の関心が高い分野においては、誤解されやすいカタカナ語や和製英語の安易な使用を慎むべきです。ついでながら、専門家会議に必ず出版・報道業界の校閲者を加えることも勧めたいとおもいます。
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